ドイツのピアノ教育見聞録

ピアノのレッスンを通して覗いたドイツ事情と試行錯誤の日々の記録。

音楽学校 vs 音楽系ギムナジウム

先日の演奏会にかまけている間に、大学の授業も始まってしまった。

タイムリーにブログ更新しようと思っていたのに、なかなかうまくいかないみたい。

プロのブロガーさんってすごいんだなと感心している。

いや感心してる場合じゃないでしょ、と自分にツッコミを入れねばならない。


音楽系ギムナジウムという日本の教育システムには馴染みのない分野について知ってもらうために、まずは音楽学校と音楽系ギムナジウムの違いについて簡単に説明しておきたかったのだった。


音楽学校Musikschule には、子供からお年寄りまで、初心者から音大受験希望までのありとあらゆる年齢およびレベルの人たちが、いつでも入学申し込みのできる学校だ。

様々な楽器や声楽の個人レッスンからアンサンブル、オーケストラ、コーラス、バレエ、早期教育のクラスもある。

音楽理論のクラスは、個人レッスンを申し込んでいる生徒には、無料で受講が認められている。

レッスンの進度やレベルは、各々の生徒に合わせて進められる。

レッスンは週に一回30分が基本だ。

授業料は個人負担だが、私の勤務する学校は市立なので、市からの援助のお陰で決して高額な料金ではない。

しかも、才能とやる気を認められた生徒は、週2回の個人レッスン及び副科の楽器の授業料援助を市から受けることができる。


音楽系ギムナジウムMusisches Gymnasiumは、小学校4年生を終了する時点でギムナジウム進学に適した成績を修めることのできた子供たちが、5年生から進学し、大学入学資格Abitur アビトゥアに合格するまでの12又は13年生まで在籍することの出来る学校だ。

音楽が主要科目であり、好きな楽器を1つ習得することが義務付けられていて、音楽の授業とは別に、楽器の授業が時間割に組み込まれている。

オーケストラ、コーラスなども数種類の編成があり、最近のドイツでは、ジャズバンドの指導も熱心な先生が多いようだ。

ギムナジウムには、数学や英語の先生と同じように、ピアノやバイオリンなどの楽器の演奏を教える先生が勤務している。フルート、ギター、トランペット、ファゴットなど、実に様々な楽器の先生が授業をする。

授業のカリキュラムは、日本の文科省に相当するバイエルン州Kultusministerium によって、各学年ごとに生徒が習得せねばならない音楽的技術的基準がはっきりと定められている。

授業は週一回のペースだけれど、45分の授業時間を2人又は3人で共有するという形になる。

単純計算すると、1人最短15分のレッスン時間しかなく、あとはクラスメートのレッスンを聴いて学ぶということになる。

試験は半期に2回行われる。

課題曲及び自由曲を演奏して、成績がつく。

授業料は無料だ。


私は10年間に渡ってバイエルン州立の音楽系ギムナジウムであらゆる学年の生徒を教え、成績をつけてきた。

病気で長期療養中の先生の代行を務めるため、1年間だけだが別の音楽系ギムナジウムと2校同時に勤務した年もあった。

今年度は、大学の時間割との兼ね合いがどうしてもうまくいかなかったため、残念ながらギムナジウムはお休みする決心をした。

私のブログで描いている音楽系ギムナジウムに関する情報は、全て昨年度までの10年に及ぶ経験に基づいている。







演奏会 „Verfolgte Musik“

本日午後3時から地元の博物館内にあるコンサート会場で、「Verfolgte Musik 」というテーマによる演奏会がありました。

出演者は同僚のチェリストと私。

Verfolgte Musik とは、直訳すると「迫害された音楽」。

ナチスが政権を握っていた当時、ユダヤ人であるから或いは政治のイデオロギーに反するからという理由で断罪された数多くの作曲家と彼らの作品。その中から今日は、チェロとピアノの為の作品を幾つか演奏しました。

プログラムは以下の通り。

 

エルネスト ブロッホ作曲

「ユダヤ人の生活から」より第1番「祈り」

                                                    第2番「哀願」

 

アントン ヴェーベルン作曲

チェロとピアノの為の2つの小品

 

パウル ヒンデミット作曲

バレエ音楽「気高い幻想」より「瞑想」

 

マックス ブルッフ作曲

コル・ニドライ Op.47

 

ドイツでは毎年11月1日は万霊節、日本でいうところのお盆の時期に当たります。

そして11月9日には、1938年に起きたKristallnacht 水晶の夜と呼ばれる反ユダヤ主義暴動の犠牲者を偲ぶ行事が毎年執り行われます。

来場して下さった方々と共に、過去と未来に想いを馳せた、静かな午後でした。

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音楽系ギムナジウム

音楽系ギムナジウムMusisches Gymnasium とは何か?

「日本で言うところの音楽高校?」と聞かれたことがあるが、答えは否、全く別の代物である。

ドイツでは、小学校4年生を修了した後、3種類の進路の中から自分の将来に見合った学校に進学する。

ギムナジウムは将来大学に進学しようと希望する生徒たちが入学する学校だ。

日本の小学校五年生から高校卒業までの、幅広い年齢層の生徒たちが在籍している。

日本と違って、勉強しなければ情け容赦なく落第させられるため、20歳の大人と10歳の子供が同じ校舎で学んでいるのもごく普通の光景だ。

ドイツには語学系、理数系、社会学系、古典系と並んで音楽系のギムナジウムがあり、四年生の子供達は、親と相談して自分が気に入った学校に進学する。

「音楽系だったら、将来音楽大学に行く人が多いの?」と言う質問に対する答えは、どちらとも言えない、かもしれない。

音楽系ギムナジウムに行っても音楽の成績のよくない子もいれば、理数系のギムナジウムから音大に進学する子もいる。

音楽はその昔、数学や天文学と同じカテゴリーに属する学問であった。

あのピタゴラスが音律法を数学的に考案している。

音楽系ギムナジウムでは、音楽はドイツ語や数学などと並ぶ主要科目であり、生徒は好きな楽器を1つ習得することを日本の文科省に相当するバイエルン州のKultus Ministeriumによりカリキュラムに定められている。

つまり、音楽系ギムナジウムに入学したら、楽器の演奏を習得せねばならず、日本の学校に例えると、中間、期末テスト毎に、課題曲及び自由曲を演奏し、成績をつけられることになる。

しかも、入学前に楽器がある程度演奏できなければいけないという条件も一切ない。

小学校五年生で楽器も楽譜の読み方も一から習い始めるのだ。

私が初めて音楽系ギムナジウムの何たるかを知った時、小学校五年生から楽器を習い始めるなんて、無理だろうと思った。

ところがどっこい!

結構驚きの現実が音楽系ギムナジウムでは展開されている。

そしてここは、音楽学校Musikschuleとも全く違う別世界なのだ。



会議は踊らないけど

本日は会議の日。

朝9時から、ピアノとキーボードを担当する教員による分科会。

報告、連絡、相談。

普段なかなか顔を合わせることのない先生も多いので、1年に数回行われる分科会は貴重な情報交換の場だ。

新しい教材に関する情報もあり、ちょっとした研修の場でもある。

11月から本格的に音楽学校の行事がスタートする。

それらに加えて、ドイツで毎年1月末から2月にかけて行われるJugend Musiziert、ドイツ青少年音楽コンクールの地区予選に向けて、今からリハーサルや練習発表会などの予定がどんどん組み込まれていく。

その他、Freiwillige Leistungsprüfung、バイエルン州共通検定試験の申し込み締め切りもすでに目前だ。

時間割が決まったとホッとする暇もなく、次々とやってくるコンサートやイベント、試験やコンクールに向けて、計画を立てておかなければいけない。

音楽学校の一年は、まるで障害物競走だ。


10時半からは全体職員会議。

ここではすべての教職員が集合する。

というのは建前で、実際には授業中の先生方がいらっしゃるので、全員揃うことはまずないのだ。

今日はその他、市の役人も出席して、校舎の改築予定についての話があった。

3年後には校舎が改築される予定だ。

しかし話はなかなか進まない。

なぜなら、私たちの学校の校舎は街の歴史的建造物であるため、そう簡単に改築案を出せないことが原因だ。

なんでもその当時、ナポレオンが進軍してくるのを怖れた街の人々が立て篭った要塞が、現在では音楽学校として使用されているというわけだ。

結局ナポレオンはこの街には来なかったとさ。

全体会議でも、先ほどの分科会と同様、コンクールと検定試験というのは大きなテーマだ。

来年度はバイエルン州内の公立音楽学校の合同会議が私たちの学校で開催される。

その準備も着々と進行中だ。


会議終了12時半。

お昼を食べたらすぐにいつものレッスンだ。

今日は疲れたー!


余談だけど、Eさんがお庭で取れたリンゴを差し入れに持ってきた。

収穫して袋に放り込まれたままのリンゴを手に取って、そのままかじる人が殆どだった。

誰もリンゴ、洗おうと思わないみたい。





初めての教材

今年度の時間割が決まった!

しかもまだ9月、新学期が始まってからたったの3週間!

これは新記録かも。

今年度はきっといいことあるに違いない!


さて、今年度の私のクラスには、4人の初心者がいる。

初心者にどの教材を使うのかは、ピアノ指導者にとっては非常に悩まされる問題だ。

私もありとあらゆる教材を試してきた。

今回は、ここ数年の間で私がかなり手応えを感じることのできた、お気に入りの教材を紹介しようと思う。

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Hal Leonard Klavierschule, Übungsbuch, Band 1 https://www.amazon.de/dp/904310504X/ref=cm_sw_r_sms_awd_xs_3UtSBb1YM1SQ9


https://store.shopping.yahoo.co.jp/gakufunets/167976.html


写真はドイツ語版だが、オリジナルは英語、日本でも日本語版が購入できるらしい。

これは、4〜7歳の幼稚園から小学校低学年の初心者には非常に理解しやすい内容と構成の教材だ。

ちなみに私は、ドイツでは子供が小学校入学してからピアノのレッスンを受けさせるのが一般的だと書いたけれど、勿論例外もある。

4歳でピアノを習い始める子供もいる。

ただそれは少数派だということだ。

では一般的な幼稚園児が全く音楽教育を受けないのかというとそうではない。

私の勤務する市立音楽学校städtische Musikschule には早期教育musikalische Früherziehung のクラスがある。

それは10人ほどのグループレッスンで、オルフのような楽器を皆で演奏したり歌ったりする。

もっと年齢が下がって2歳児クラスMusikgartenになると、親同伴でのグループレッスンを受けられるようだ。

どちらにしても、日本人の想像する早期教育とは少し違っていると私は思う。

さて話を戻そう。

この教材は、初心者が楽譜を読むのに必要な要素をリズムと音名に分け、まずはリズムをしっかり理解した後、音名の認識作業へと導入している。

ピアノの鍵盤のオリエンテーションも黒鍵からの導入で、真ん中のC(ド)にも固執しない。

また右手と左手の1の指をどこに準備するのかも、色々なバリエーションがあり、子供が柔軟に対応できる能力を高めていけるようになっている。

年齢の低い初心者向けの、私のお気に入りの教材だ。

私の経験上、大概の子供たちは問題なく楽譜を読めるようになる。

たまに不器用で手がなかなか動かないタイプの子って、やっぱりいるんだけどね…。


お国はどちら?

私はドイツに住んで、ドイツの学校及び大学で働いていると書いた。

そして、ドイツ人の子供たちは、という表現をよく使う。

しかし厳密に言うと、私が教えているのはドイツ人の生徒または学生だけではない。

ざっと見渡したところ、大半はドイツ人だが、その他、フランス、イタリア、オーストリア、ロシア、カザフスタン、ルーマニア、ウクライナ、マケドニア、アルバニア、アラブ、ヴェトナム、モンゴル、中国等、彼らのバックグラウンドは実に様々だ。

一昔前まではドイツ人しか住んでいないと思われても仕方なかった保守的な田舎町が、急速に多様化している。

ドイツの移民難民政策も無関係ではないだろう。

そして同僚たちも実に国際色豊かだ。

日本人を始め、ロシア、グルジア、イギリス、カナダ、アメリカ、ハンガリー、アルゼンチン、トルコ等々。

異なる地域出身の人間同士が、ドイツ語と音楽でコミュニケーション取る、そんな真っ只中にドップリとはまり込んでいる。



レッスンはいつから始めるべきか?

ドイツでは、子供が小学校に上がってから楽器の個人レッスンに通わせるのが一般的だ。

なぜか?

私の勝手な憶測だが、一年生になって初めて学校でアルファベットを習うからである。

ドイツ語でドレミはCDE(ツェーデーエー)だ。

ドレミファソラシ、即ちCDEFGAHの7文字を習ってから音楽学校に通わせるべきだと、ドイツ人は考えるらしい。


これが日本人、又はアジア系出身者には、とても遅いスタートに感じられる。

アジアの国々では、早期教育が盛んだ。

そして何より、アジア系の子供たちは指先がとても器用だ。

これは、アジアの国々では子供の頃からお箸を使って食事をするからに違いない。

学術的な裏付けはない。あくまで私の個人的な持論だ。


ドイツ人は、子供に早期教育を受けさせようとは考えない。

それどころか、子供は子供らしく伸び伸びと育てたいと思っているようだ。

習い事は早くて一年生で十分らしい。


私も昔は、早期教育は当然だと考えていた。

娘も幼稚園児の時に、ピアノを習い始めた。

しかし、私自身がドイツの小学一年生にピアノを教え初めて以来、その考え方が少し変わった。


アジア系の子供たちは、親に連れられてレッスンにやってくる。

しかし、ドイツ人の子供たちは、親を伴ってレッスンにやってくる。

そう、ドイツ人の子供たちは、自分が習いたいからここに来るのだと言う確固たる意思がある。

したがって、宿題も自分で責任を持ってやる。親も、子供が自発的に練習しようと思わないと意味がないと考える。

練習しないでレッスンに行って先生に怒られても、それは子供自身の責任であり、子供自身が経験を通して学んでいくべきだというのが、ドイツ式家庭教育の方針だ。

それに比べると、アジア系の子供たちは、残念ながら親に怒られて練習する子が大変多い。

初期の段階では子供の自主性はあまり感じられない。

しかし、早いうちに怒られながらもそれなりに上達しているわけだから、コンクール等の準備には非常に有利だ。


どちらが良いのかは、誰にもわからない。

どんな始め方であっても、将来いつの日にかピアノが弾けて楽しいと思えたら、それで良いのだろう。